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カテゴリ:本( 1 )

   よだかの星

よだかの星


山焼けの火は、だんだん水のように流れてひろがり、雲も赤く燃えているようです。

よだかはまっすぐに、弟の川せみの所へ飛んで行きました。

きれいな川せみも、丁度起きて遠くの山火事を見ていた所でした。

そしてよだかの降りて来たのを見て云いました。

「兄さん。今晩は。何か急のご用ですか。」

「いいや、僕は今度遠い所へ行くからね、その前一寸お前に遭いに来たよ。」

「兄さん。行っちゃいけませんよ。蜂雀もあんな遠くにいるんですし、

僕ひとりぼっちになってしまうじゃありませんか。」

「それはね。どうも仕方ないのだ。もう今日は何も云わないで呉れ。

そしてお前もね、どうしてもとらなければならない時のほかは

いたずらにお魚を取ったりしないようにして呉れ。ね。さよなら。」

「兄さん。どうしたんです。まあもう一寸お待ちなさい。」

「いや、いつまで居てもおんなじだ。はちすずめへ、あとでよろしく云ってやって呉れ。

さよなら。もうあわないよ。さよなら。」

よだかは泣きながら自分のお家へ帰って参りました。みじかい夏の夜はもうあけかかっていました。

羊歯の葉は、よあけの霧を吸って、青くつめたくゆれました。よだかは高くきしきしきしと鳴きました。

そして巣の中をきちんとかたづけ、きれいにからだ中のはねや毛をそろえて、また巣から飛び出しました。

霧がはれて、お日さまが丁度東からのぼりました。

夜だかはぐらぐらするほどまぶしいのをこらえて、矢のように、そっちへ飛んで行きました。

「お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。灼けて死んでもかまいません。

私のようなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出すでしょう。どうか私を連れてって下さい。」

行っても行っても、お日さまは近くなりませんでした。

かえってだんだん小さく遠くなりながらお日さまが云いました。

「お前はよだかだな。なるほど、ずいぶんつらかろう。今夜そらを飛んで、星にそうたのんでごらん。

お前はひるの鳥ではないのだからな。」

夜だかはおじぎを一つしたと思いましたが、急にぐらぐらしてとうとう野原の草の上に落ちてしまいました。

そしてまるで夢を見ているようでした。

からだがずうっと赤や黄の星のあいだをのぼって行ったり、

どこまでも風に飛ばされたり、又鷹が来てからだをつかんだりしたようでした。

つめたいものがにわかに顔に落ちました。

よだかは眼をひらきました。一本の若いすすきの葉から露がしたたったのでした。

もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。

よだかはそらへ飛びあがりました。今夜も山やけの火はまっかです。

よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。

それからもう一ぺん飛びめぐりました。

そして思い切って西のそらのあの美しいオリオンの星の方に、まっすぐに飛びながら叫びました。


「お星さん。西の青じろいお星さん。どうか私をあなたのところへ連れてって下さい。

灼けて死んでもかまいません。」


オリオンは勇ましい歌をつづけながらよだかなどはてんで相手にしませんでした。

よだかは泣きそうになって、よろよろと落ちて、それからやっとふみとまって、もう一ぺんとびめぐりました。

それから、南の大犬座の方へまっすぐに飛びながら叫びました。

「お星さん。南の青いお星さん。どうか私をあなたの所へつれてって下さい。やけて死んでもかまいません。」

大犬は青や紫や黄やうつくしくせわしくまたたきながら云いました。

「馬鹿を云うな。おまえなんか一体どんなものだい。たかが鳥じゃないか。

おまえのはねでここまで来るには、億年兆年億兆年だ。」

そしてまた別の方を向きました。

 よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又二へん飛びめぐりました。

それから又思い切って北の大熊星の方へまっすぐに飛びながら叫びました。

「北の青いお星さま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」

 大熊星はしずかに云いました。

「余計なことを考えるものではない。少し頭をひやして来なさい。

そう云うときは、氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、近くに海がなかったら、

氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」

よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又、四へんそらをめぐりました。

そしてもう一度、東から今のぼった天の川の向う岸の鷲の星に叫びました。

「東の白いお星さま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。やけて死んでもかまいません。」

鷲は大風に云いました。

「いいや、とてもとても、話にも何にもならん。星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。

又よほど金もいるのだ。」

よだかはもうすっかり力を落してしまって、はねを閉じて、地に落ちて行きました。

そしてもう一尺で地面にその弱い足がつくというとき、

よだかは俄かにのろしのようにそらへとびあがりました。

そらのなかほどへ来て、よだかはまるで鷲が熊を襲うときするように、

ぶるっとからだをゆすって毛をさかだてました。

 それからキシキシキシキシキシッと高く高く叫びました。

その声はまるで鷹でした。野原や林にねむっていたほかのとりは、

みんな目をさまして、ぶるぶるふるえながら、いぶかしそうにほしぞらを見あげました。

夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。

もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。

よだかはのぼってのぼって行きました。

 寒さにいきはむねに白く凍りました。

空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。


それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。

つくいきはふいごのようです。寒さや霜がまるで剣のようによだかを刺しました。

よだかははねがすっかりしびれてしまいました。

そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。

これがよだかの最后でした。

もうよだかは落ちているのか、のぼっているのか、さかさになっているのか、

上を向いているのかも、わかりませんでした。

ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、

横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらって居りました。

それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。

そして自分のからだがいま燐の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。

すぐとなりは、カシオピア座でした。

天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。

そしてよだかの星は燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。

 今でもまだ燃えています。

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by kawasemiko | 2013-04-29 11:34 |